LanguageLANG
Column

九谷焼の色彩美 ― 五彩技法と絵柄の意味、現代に受け継がれる表現

九谷焼の魅力を語るうえで欠かせないのが、鮮やかな色彩と装飾性の高い絵付けです。なかでも赤・青・黄・緑・紫の五色を用いる「五彩(ごさい)技法」は、九谷焼を象徴する表現として知られています。

本記事では、五彩技法の特徴と成立の背景をひもときながら、絵柄に込められた意味や象徴性、さらに現代の作り手たちがどのように伝統を受け継ぎ、新たな表現へと発展させているのかを解説します。

【五彩技法とは】

五彩の起源

「五彩」とは、文字どおり五つの基本色を指します。九谷焼では、赤・青(紺青)・黄・緑・紫の五色を中心に構成される色彩表現を意味します。この五彩の技法は、中国の明代に見られる色絵磁器の影響を受けつつ、日本で発展した古九谷の装飾表現とも結びついて成立したと考えられています。

古九谷では、赤絵・緑絵・黄絵を主体とした配色が多く、色を大胆に配置する構図が特徴でした。器面を広く使った力強い色面構成は、当時の九谷焼の個性を際立たせる要素となっています。
その後、再興九谷の時代になると紫や紺青などの色も積極的に用いられるようになり、表現の幅はさらに広がりました。これにより、より華やかで複雑な装飾表現が可能となり、現在につながる九谷焼の色彩体系が形づくられていきました。

金沢風九谷焼皿

九谷焼 吉田屋様式 舟形皿

技法の特徴

五彩技法には、次のような特徴があります。

1.鮮やかな発色
五彩の色は、透明な釉薬の上に上絵付けすることで、明るく鮮やかに発色します。焼成温度や重ねる順序によって色の濃淡や深みが変化し、表現の幅が広がります。

2.色の重なりによる立体感
色を重ねることで奥行きや立体感を生み出せる点も特徴です。たとえば緑の葉の上に赤い花を描くと、色の対比によって花が浮かび上がるように見え、画面に動きが生まれます。

3.器の形を生かした大胆な構図
九谷焼の絵付けは、器の形状を意識して配置されます。余白を効果的に残しつつ色面を広く使うことで、装飾性と全体の調和を両立させています。

4.金彩による装飾効果
五彩に金彩を加えることで、装飾性はさらに高まります。金彩は最終工程で施され、比較的低温で焼き付けることで輝きを定着させます。

五彩技法の工程

五彩技法は、複数の工程を重ねながら色彩表現を完成させていきます。

1.下絵付け
まず紺青(藍色)で大まかな図案を描きます。器の形状や余白とのバランスを見ながら配置を決めることで、全体の構図が定まります。

2.上絵付け
下絵の上に、赤・黄・緑・紫などの色を重ねていきます。色によっては焼成を挟みながら描き進める場合もあり、その都度焼き付けることで色が混ざらず、鮮やかな発色を保つことができます。

3.金彩
仕上げとして、金粉や金彩絵具を用いた装飾を施します。最終段階で加えられる金彩は、画面にアクセントを与え、作品全体の華やかさや格調を高める役割を果たします。

絵柄の意味

九谷焼の絵柄には、自然のモチーフや神話、物語、吉祥文様などが多く描かれます。こうした意匠には、それぞれ象徴的な意味や願いが込められており、器を文化的な表現として位置づける要素にもなっています。

[自然のモチーフ]
花や動物は、古くから象徴性をもって用いられてきました。

・桜:春の喜びや人生のはかなさ
・菊:長寿や高貴さ
・蓮:清らかさや精神性の象徴
・鶴:長寿や幸福
・亀:長寿や不老の象徴
・鳳凰:平和や繁栄の象徴

こうした図柄は、自然観や価値観を映し出す表現として親しまれてきました。

[物語や人物]
古九谷や再興九谷では、中国や日本の故事、歴史上の人物、舞楽の場面などが題材になることもあります。
物語性をもつ図柄が描かれることで、器は単なる道具ではなく、文化や歴史を語る「小さな絵巻物」としての性格を帯びます。

[吉祥文様]
・松竹梅:長寿・繁栄・幸福の象徴
・波や雲:安定や平穏を表す意匠
・宝尽し文様:財運や繁栄への願い

これらの文様は、日常の器に縁起や祈りを込めるという、日本の生活文化の一側面を示しています。

九谷焼のぐい呑み 鳳凰

九谷焼の抹茶椀 菊

【現代の九谷焼の作り手】

継承と革新

現代の九谷焼作家は、伝統技法を守りながら、新しい表現にも挑戦しています。
古典的な絵柄だけでなく、現代的なデザインや抽象的な表現を取り入れることで、国内外の人々にその魅力を伝えています。

・伝統継承型
古九谷や再興九谷の様式を忠実に守る作家たちです。
色彩や絵柄、技法を受け継ぎ、職人技の正確さと美しさを重視しています。

・現代創作型
新しいテーマや色彩感覚を取り入れ、自由なデザインで九谷焼を表現する作家です。
抽象画のような模様や、現代アートの要素を組み合わせた作品も生まれています。

海外での評価

九谷焼は明治時代以降、海外へ輸出されるようになりました。
特に欧米では、その鮮やかな色彩と精密な絵付けが高く評価され、万国博覧会で受賞した実績もあります。現在でも海外のコレクターや美術館に所蔵され、展示されています。

現代においても、ニューヨーク、パリ、ロンドンなどのギャラリーで九谷焼を紹介する展覧会が開催されています。
五彩技法の華やかさや絵柄に込められた意味が海外の人々にも伝わり、日本の伝統工芸を象徴する存在として関心を集めています。

教育と技術継承

現代の九谷焼を支えているのは、伝統技法を受け継ぐ職人たちの存在です。石川県内には将来の作り手を育成する教育機関や研修施設があり、若手作家が技術を学びながら自らの作風を模索しています。

また、分業制の伝統も重要な役割を担っています。
成形職人、絵付け職人、窯元がそれぞれの専門性を活かし、協働して作品を完成させます。こうした仕組みによって、九谷焼の技術と表現は途切れることなく受け継がれています。

五彩技法の現代的応用

五彩技法は、伝統的な装飾技法として受け継がれるだけでなく、現代の暮らしやデザインの中にも取り入れられています。近年では、日常使いの食器やインテリアオブジェ、アート作品などに五彩の色彩が応用され、現代的な空間にも調和する表現が生み出されています。

また、顔料や釉薬の研究、電気窯の活用などにより、色の安定性や再現性が向上し、作家はより自由な発色や繊細な色の重なりを表現できるようになりました。これにより、伝統的な様式を踏まえながらも、抽象的な図案やモダンな配色を取り入れた作品が増えています。

九谷焼の泰山木湯呑

九谷焼のお皿と和菓子

(まとめ)

五彩技法は、九谷焼の色彩表現と絵付けを支える重要な技術です。赤・青・黄・緑・紫の五色を巧みに組み合わせることで、器に立体感や奥行き、華やかさが生まれます。さらに、描かれる絵柄には自然や吉祥、物語などの意味が込められ、日常の器の中に文化や願いが表現されています。

現代の作り手たちは、こうした伝統を大切に守りながら、現代的なデザインや抽象表現も取り入れ、国内外に九谷焼の魅力を広めています。教育機関での人材育成や分業制による技術継承も続いており、伝統は次世代へと確かに受け継がれています。

九谷焼の器や装飾品に触れるとき、それは単なる日用品ではなく、日本の歴史や文化、そして職人の技術と想いが形になった芸術であることを感じていただければ幸いです。