夏になると、どこからともなくチリンチリンと鳴り響く涼やかな音色――。日本の夏の風物詩の一つとして知られる「風鈴」ですが、もともとは占いの道具に使われていたのが始まりなのだとか。今回は、そんな風鈴の歴史についてご紹介します。
風鈴とは?その由来
風鈴の元になったとされているのは、中国の占い「占風鐸(せんふうたく)」で用いる風鐸(ふうたく)と呼ばれる鐘。唐の時代、中国では青銅でできた風鐸を竹林の四方に吊り下げ、音の鳴り方で吉凶を占っていたといいます。この風鐸は、奈良時代に遣唐使によって仏教とともに日本にもたらされました。当初は厄除けのお守りとして、お寺の屋根の四方に吊るされていたのだとか。
やがて平安時代に入ると、貴族たちの間でも屋敷の屋根に魔除けとして風鐸を吊るす習慣が広まり、いつしか「風鈴」と呼ばれるようになりました。
現在、よく目にするガラス製の風鈴が初めて作られたのは、西洋からガラス文化が伝来した江戸時代のこと。ただし、当時はとてもガラスは希少で高価だったため、庶民にはとても手が出せない代物だったよう。やがてガラス製品が安価で出回るようになり、庶民の間にも広がっていきました。夏に飾る習慣が生まれたのもこのころだといわれています。
寺の軒下に吊るされた風鐸
寺の軒下に吊るされた風鐸
風鈴や 耳に涼しき 音ひとつ
(ふうりんや みみにすずしき おとひとつ)
これは江戸時代に活躍した俳人・小林一茶が詠んだ俳句です。この句からも、風鈴の音色が涼しさを感じさせるものとして親しまれていたことがわかりますね。
風鈴の音色に秘められたさまざまな効果
ところで、風鈴の音色にはさまざまな効果があるのをご存知でしょうか。
1.リラックス効果
風鈴の音色のように、高周波・倍音を含む音には、自律神経を安定させ、心拍数や血圧を穏やかにする働きがあります。
ある大学の研究によると、風鈴の音を聴いた被験者は、「快適」「涼しさを感じる」「落ち着く」と感じたほか、風鈴の音にはリラックス時に出る脳波「アルファ波」を増加させることも確認されています。
2.体感温度を下げる
風鈴の音色を聴くだけで、実際の温度に関係なく「涼しい」と感じることがあります。これは「クロスモーダル」と呼ばれる現象のひとつで、視覚、嗅覚、触覚、聴覚、味覚といった人間の感覚(モーダル)が互いに作用・干渉し合うことで起こると考えられています。
日本人にとって風鈴はなじみ深いものであり無意識のうちに、風鈴が鳴る=風が吹いている=涼しいと錯覚しているのだとか。
ただし、これは日本独特の文化であり、外国人が風鈴の音色を聴いても「涼しい」と感じることはほとんどないといいます。
3.集中力・注意力UP
ある大学の研究によると、風鈴の音色は雨の音や鳥の声といった自然音に近く、聴きながら作業を行った場合、集中力が向上する傾向があると評価しました。
4.入眠を促す
風鈴の音色には、癒しをもたらすとされる「1/f(エフぶんのいち)ゆらぎ」があります。
ある研究結果によると、風鈴の音は自然界に多いリズムであり、人間の生体リズムと共鳴しやすく、入眠を促す作用が認められています。
美しいガラス風鈴が奏でる涼やかな音色
風に揺れるカラフルな風鈴
風鈴の構造について

風鈴の構造
あらためて、風鈴の構造について見てみましょう。
いたってシンプルで、大きく「外見(そとみ)」、「舌(ぜつ)」、「短冊」の3つで構成されています。外見とは、いわゆる鐘の部分。
風が吹き、短冊が風を受けることで、糸で吊るされた舌が揺れ、さらに舌が外見に当たることで音が鳴る仕組みになっています。
江戸風鈴に、南部鉄。各地で作られる特色ある風鈴
全国各地で作られている風鈴の中から、代表的なものをご紹介します
江戸風鈴……江戸時代から受け継がれる製法で、江戸(東京)で作られているガラス製の風鈴。現在、江戸風鈴を名乗ることができるのは「篠原風鈴本舗」と「篠原まるよし風鈴」だけです。
型を使わず、息を吹き込んでガラスを成形する「宙吹き」と呼ばれる高度な技法で丸い形をつくるのが特徴。ガラスの縁はあえて整えず、ギザギザに残されていることで、美しい音色が鳴り響きます。また、風鈴の内側に手書きで絵付けを行うのも大きな特徴です。
江戸風鈴の職人技の吹き上げ
江戸風鈴絵付け
南部鉄風鈴……その名のとおり、南部鉄器で作られた風鈴のこと。良質な砂鉄、密度が高い南部鉄器製の風鈴は見た目には重厚感がありますが、ガラス製の風鈴よりも高く、澄んだ音色が特徴です。
南部鉄風鈴
南部鉄風鈴
高岡風鈴……富山県高岡市の工芸品「高岡銅器」の技法を使って作られる風鈴で、主に真鍮で作られています。真鍮は加工がしやすいことから、繊細なデザインのものも多く作られているほか、鉄よりもさらに高く余韻のある音色が特徴的です。
小田原工芸鋳物……室町時代より受け継がれる鋳物の技術を使って作られる風鈴。現在は「柏木美術研究所」のみで作られています
明珍火箸風鈴(みょうちんひばしふうりん)……兵庫県姫路市で平安時代から続く甲冑師の家系・明珍家が考案した風鈴。明治維新以降、需要がなくなった甲冑の代わりに火箸を作るようになり、厄除けとして明珍火箸を贈る風習も生まれたそう。
火箸が触れ合うときの音色を活かせないかというアイデアから明珍火箸風鈴は誕生しました。
(まとめ)
このほかにも、錫や陶磁器など、さまざまな素材で作られた音色が全国各地で製造・販売されています。
風鈴の音色には本当にリラックスや集中力をあげる効果があるのか――。この夏、お部屋に風鈴を飾って、試してみてもいいかもしれませんね。