沖縄を訪れたことがある方なら、一度は「琉球ガラス」を目にしたことがあるのではないでしょうか。沖縄みやげとしても人気が高い琉球ガラスが発展した背景には、戦争の混乱期と、それに続く復興が大きく影響しています。今回は、そんな琉球ガラスの歴史や製造方法についてご紹介します。
◇琉球ガラスの歴史
沖縄でガラスが作られるようになったのは明治時代中期頃といわれています。長崎や大阪からやってきたガラス職人によって伝えられ、薬瓶やびん玉と呼ばれる漁具など、生活用品が作られていました。
しかし、第二次世界大戦によって沖縄は甚大な被害を受け、ガラス工房も壊滅的な打撃を受けたことでそのガラスの歴史は一度途絶えてしまいます。
戦後、駐留する米軍やその家族らから日用品などの注文を受けるようになりますが、物資が足りないため、生産が間に合いません。そんな時に職人たちが目を付けたのは、米軍基地で大量に廃棄されたコーラやビールの空き瓶。廃瓶を溶かしてガラスの原料にすることを思いついたのです。こうして、琉球ガラスの原点である「再生ガラス」文化が生まれ、大きく発展するきっかけとなりました。
昔ながらの琉球ガラスに見られる青緑色や深い琥珀色は、アメリカ製の瓶に由来するものです。また、廃瓶を原料にする場合、剝がしきれなかったラベルなど不純物を完全に取り除くことが難しいため、どうしても気泡が入ってしまったり、色や厚みが均一でなかったりしがちで、本来であれば“不良品”とされてしまうところ、むしろ独特の風合いが「素朴で魅力的だ」として徐々に人気が高まっていきました。とくに1950年代~1960年代にかけては土産物や日用品としての需要が高まり、琉球ガラスは沖縄の一大産業として急成長します。この時期に生まれた数多くの工房や職人たちが、現在の琉球ガラスの礎を築き、1998(平成10)年には沖縄県の伝統工芸品に指定されました。
琉球ガラス
琉球ガラス
◇琉球ガラスの原料の移り変わり
時代と共に、廃瓶が手に入りにくくなりましたが、今も昔ながらの製法で、廃瓶を原料にする作り手が存在します。
一方で、珪砂(けいしゃ)と呼ばれる砂を主原料に「ソーダ灰」や「石灰」を調合したものをベースに作る工房や作家も増えています。琉球ガラスの基本の色は、オレンジ・茶・緑・水色・青・紫の6色ですが、調合によってより幅広い表現ができるようになりました。
この他、車の窓ガラスなど廃ガラスを原料に手がける作り手も登場しています。
◇琉球ガラスの製法
琉球ガラスには、主に「宙吹き(ちゅうぶき)」と「型吹き(かたぶき)」の2つの製法があります。
■宙吹き法
1300~1500度の高温で溶かしたガラスの素地を「ポンテ竿(吹き竿)」と呼ばれる筒状の道具に巻き取り、その後、息を吹き込んでガラスを膨らませる方法のこと。ちなみに“ポンテ”とはイタリア語で橋を表す言葉。ガラス工芸の製造方法としてよく知られた技法で、丸みを帯びた形状に仕上がるのが基本です。
一つひとつ手作りのため、職人の技量や加減で仕上がりに大きな差が生まれ、同じように作っても、微妙な違いが生じるため、同じものは二つと存在しません。
■型吹き法
宙吹き法と同様にガラス素地を1300~1500度で溶かしてポンテ竿で巻き取り、金属や石膏などで造られた型に入れて息を吹き込みます。同じ形状のものを大量に作る際に適した技法です。
【製造工程】
宙吹き法、型吹き法、どちらにおいても大きく分けて5つの工程があります。これらの工程の中で、「坩堝(るつぼ)」と呼ばれるガラスを溶かす溶解炉、成形中に温度が下がって硬くなってしまうガラスを、再加熱して軟らかくするための「整形窯」、製品を冷ますための「徐冷炉(じょれいろ)」の3つの窯が使われるため、2~3人の職人が連携して一つの作品が作成されます。
1. 原料を調合する
珪砂、ソーダ灰、切開などの基本原料に、廃瓶や着色剤を加えて調合します。
2. 原料を溶かす
調合した原料を1300~1500℃に熱した坩堝に入れ、一晩かけて溶かします。
3. 形を作る
宙吹き法もしくは型吹き法で成形し、整形窯を用いながら形をしっかりと整えていきます。
4. 徐冷
約600度の徐冷炉(じょれいろ)に入れ、ひと晩かけて常温まで冷ます。ゆっくり冷ますことで急速な温度変化によるガラスの損傷を防ぎ、ガラスの強度を強めます。
5.仕上げ・検品
徐冷後、ひびや割れがないかを検品し、出荷もしくは店頭に並べます。
吹きガラスの制作風景
琉球ガラスの制作風景
◇琉球ガラスの“気泡”について
琉球ガラスの特徴でもある「気泡」。不純物が含まれない素材を使う現代においては、ガラスの素地に炭酸水素ナトリウム(重曹)を加えて攪拌します。これにより、無数の細かい気泡が現れ、光を乱反射してガラスが白く見える効果を生み出します。窯の中で時間が経つと、炭酸飲料のように泡は少しずつ薄くなっていきます。
琉球ガラスの特徴:「気泡」
琉球ガラスの特徴:「気泡」
(まとめ)
ここ数年、SDGsやサステナブルといった言葉が認知され、再生素材を利用した製品に注目が集まっていますが、沖縄では戦後間もない70年以上前から廃瓶のアップサイクルが行われてきました。
一つひとつ、工房や職人の手作業によって生み出される琉球ガラス。ぽってりと厚みのあるガラスの手触りや、ほんのり揺らめく光の反射が、沖縄の穏やかな空気を思い出させてくれます。
各工房では定番のグラスや酒器、ボウルといった食器類をはじめ、さまざまな製品が作られています。ぜひお気に入りの1品を探してみてください。